肥満と薄毛からの脱出!「背水の陣」に直面した中年男の日記

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齋藤孝「バカになれ~50歳から人生に勢いを取り戻す」

齋藤孝「バカになれ~50歳から人生に勢いを取り戻す」を読みました。

齋藤孝氏は、明治大学文学部教授で、専門は教育学・身体論・コミュニケーション論で、「声に出して読みたい日本語」などベストセラーを多数輩出している作家でもあり、テレビにもよく出ている方です。

僕は昨年(2019年)2月に50歳となり、この本を見つけたのは7月だったのですが、タイトルを見て、すぐに手に取り、少し読んだ後、「これは、僕のために書かれたような本だ!」と衝撃を受け、即買いしました。

とっくに読んでいたのですが、僕は大事な事や物ほどなかなか手を付けられない、という変な性格を持っているため、ずっと温めたまま放置してしまい、今回意を決して書評を書くことにしました。

 

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齋藤孝・著 / バカになれ(表面表紙)

①人生を苦しくする「三本の鎖」

著者は、人間特に日本人にとって、人生を苦しくするものに以下の「三本の鎖」があると言っています。

㈠ 一本目の鎖「他者の視線という地獄」

㈡ 二本目の鎖「コンプライアンス意識」

㈢「個性的でなければいけない」

元々日本人は、人の目を異常に気にする性質を持っていますが、最近になってFacebookをはじめとするSNSが普及するにつれ、プライベートにおいても「他者の視線」に触れることが多くなり、「常に見られている」という意識に苦しんでいる人が増えているそうです。

また、ここ15年前あたりから「コンプライアンス意識」というものが高まっており、いつも正しく品行方正で、世間に物議を醸し出すようなことはご法度という雰囲気が高まっております。そのため、ちょっと突飛な企画などは却下され、社内のルールや手続きなどは厳格化され、常に戦々恐々となって「萎縮する」ムードが高まっています。

そのくせ、「個性的である」ことを求められ、他人との違いをいかに表出するべきかに皆苦心しています。

 

以上のような鎖に縛られ、ストレスが溜まっていき、中高年の間で「キレる」人が増えているとのことです。

その最も大きな原因は、やっぱり「他人からの評価」「他人からの視線」なのだそうです。

 

そこで、斎藤氏は、夏目漱石宮沢賢治の例を挙げています。

 

夏目漱石も、イギリス留学中に、周りの「西洋人」の目を気にしすぎた結果、ノイローゼに近い状態になったそうです。そのギリギリの絶望の中で、漱石はこう悟ったそうです。

「西洋人と日本人である自分の考え方が違うのは当然のことではないか。西洋人の奴隷ではないのだから、自分は自分の考えを述べ、「自己本位」に徹してみてはどうだろうか」

「自分の納得がいく道を進んだと自覚するのであれば、いかにそれが他人にとってくだらないと思われたとしても、それはその他人の考え方と観察であって、自分自身には関係ないことなのだ。もし、自分自身のこだわりがあるのなら、それを踏み潰すまで進まなければ駄目ですよ」

晩年の漱石学習院大学の学生に向けて行った「私と個人主義」という講演の記録に収められていますが、これが漱石流の「バカになれ」のメッセージなのでしょう。

 

そして、宮沢賢治は有名な「雨ニモマケズ」の詩の後半で、皆に「木偶の坊(デクノボウ)」呼ばわりされ、褒められもせず苦にもされない、そういう人間にわざわざなりたいと言っています。

これはなかなか理解できないことかもしれませんが、現代の僕たちが「いいね」を欲しがって無理をする姿勢と対極的だと齋藤氏は言っています。

そして、齋藤氏はこう締めくくっています。

「自分の一度きりの人生を他人の評価に委ねることは、取り返しのつかない損失ではないでしょうか。たとえ人からどう思われようと、自分で自分を評価できるような基準を持つこと。そのほうがよほど豊かで自由な人生につながると思います」

 

②若いころの情熱を呼び覚ませ

この「三本の鎖」から自由になる最も手っ取り早い方法は、他人からの評価に関係なく、「自分が本当に何か熱中できるものを見つけること」と斎藤氏は言っています。

そして、その情熱を注ぐべき対象は、その対象を前にして、「ときめき」を感じるかどうかで判断すれば良い、と言っています。

その際、大切なことは、「役に立つ・役に立たない」で物事を判断する「小利口」になるのではなく、自分の興味を持った牙城を果敢に攻める「ドン・キホーテ」になることが、本当に人生を楽しむコツなのだそうです。

福沢諭吉は、目的がなかったからこそよく勉強ができたとして、「目的のない」学問を勧めています。

「小利口」が一番良くない、人生で最も成功しないタイプであることは、「ホリエモン」こと堀江貴文氏も言っていますが、大事なことは「コスパ」などは考えず、出来る範囲で好きなものに囲まれようとする意欲が、最後に自分を満足させることだということです。

 

③「幸せハードル」は低くてもいい

徒然草」に、盛親僧都(じょうしんそうず)という位の高い僧の話が出てきます。この僧はたいそう芋頭(里芋の親芋)が大好物であったそうで、四六時中食べていたそうです。

ある時、師匠が亡くなった時に、二百貫の大金と家一軒を譲り受けたそうです。しかし、家を売却して百貫を受け取ると、然るべき人に預けて、芋頭を買うためにちょくちょく引き出していたそうです。結局三百貫全てが芋頭の代金に消えてしまったそうです。でも、「大好きなイモのためなら全財産をつぎ込んでも惜しくはない」というのは、他人の評価はともかく、大変幸せなことではないか、別に高尚なものを求める必要はない、「幸せハードル」は低いほうが実現する可能性は高まる、と齋藤氏は言っています。

人は他人の目を気にして、とかく高尚なものを目標や趣味にしたがりますが、この話を読んで、とても安心しました。

 

④50歳から人生に勢いをつける

50代以上で、「バカ」になった有名人の先達を紹介しています。

一人は、「昆虫すごいぜ!」の香川照之氏。

有名な歌舞伎役者でありながら俳優業もこなす香川氏は、明らかに多忙であるはずですが、日常においても大好きな「昆虫」や「ボクシング」の情報は必ずチェックしていて、絶対的な「バカ」の領域を持つことで、厳しい仕事とのバランスを取っているようです。

もう一人は、著名なコピーライターで、「ほぼ日」社長の糸井重里氏。

糸井氏は、40代の頃、広告の仕事に情熱を失い、2年間も仕事をしない時期があったそうです。その時、氏を救ったのが趣味の釣りだったそうです。

いったん仕事から距離を置いて、「釣りバカ」になることで、自分と仕事を冷静に見つめ直すことができ、再び仕事に邁進することが出来たそうです。

 

二人に共通するのは、絶対的な「バカ」な領域を持っていること。

そのために齋藤氏は、「マイブーム」を見つけることが重要だと言っています。

「今自分はこれにハマっている」と自覚し、世の中の流行とは全く関係なく、「勝手に自分が情熱を燃やす対象」要するに「〇〇バカ」になることです。

具体的には、「今はこれが好き」というものを、一枚の紙の上に書き出していき、自分のモチベーションの源泉を探し出すことなのだそうです。

氏はこれを「情熱の棚卸し」「偏愛マップ」と呼んでいます。

 

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齋藤孝・著「バカになれ」裏面

 

⑤まとめ

齋藤氏は最後に、「棟方志功」のことを書いています。

棟方氏は、明治から昭和の時代を生きた、有名な版画家ですが、極度の近眼だったせいもあり、板に顔をこすりつけるほど接近させながら、猛烈な勢いで夢中になって彫り続ける姿は、僕たち50代以上の世代には記憶に残っているかと思います。

まさに、何かに取り憑かれたような「一心不乱」な姿です。

氏は、最後にこう締めくくっています。

「これほど熱中できるものがあれば、さぞかし幸せだろうという気がします」

「時分も何かに熱中してみたいと、きっと憧れるはずです」

「これが、本書の目指す「バカ」の究極の姿です」

 

しかし、もう一つ、齋藤氏が友人に言われた言葉が気にかかりました。

それは、「モテようとさえ思わなければ、この世はけっこう気楽なものだよ」

確かにそのとおり、名言だと思います。

僕も若い頃は(現在でも)モテない男だったので、わかりますが、人間モテようと思うから無理をしたり、本来の自分自身ではないことをして、疲れたりする。

それが日々の生きるモチベーションになる場合もありますが、たいていモテない者は何をしてもモテないと、氏は言っています。

でも、50代になって、いろいろな「競争」の結果が目に見えてきた現在、さっさとこのような現実を自分自身に納得させて「悟り」を開き、「バカ」になることが、これからの後半の人生を生き生きと輝かせることになるのではないでしょうか。