先日、近くの映画館に行って、「MINAMATA」を観てきました。
ハリウッド映画界の大スターであるジョニー・デップが発案し、企画制作に携わり、主演まで手掛けた話題の映画で、2020年2月のベルリン国際映画祭にノミネートされ、日本では2021年9月23日から上映されています。
あのジョニー・デップと水俣病がどうしても結びつかなかったのですが、ジョニー・デップは以前からフォト・ジャーナリストで有名なユージン・スミス(1918-1978)にとても興味があったようで、中でもユージン・スミスが撮って、世界的に有名となった水俣病の写真集「MINAMATA」に非常に感銘を受け、映画化することを強く決意したのだそうです。
「水俣病」は、言わずと知れた日本の4大公害病ですが、主に戦後から1970年代までの出来事であり、「すでに解決した事件」として、忘れ去られようとしていたと思っていました。
しかし、ジョニー・デップも言っていたように、問題が解決されたわけではなく、未だに闘いは続いているという事実に、自分の無知を恥じました。
映画を観ての感想ですが、話の流れに無駄がなく、事実をありのままに突き付けてくる映像はとても衝撃的で、2時間以上の長編映画でしたが、あっという間だったのが正直なところです。
舞台は1971年のニューヨーク。
フォト・ジャーナリストとして名声を博していたユージン・スミスは、時代の流れとともに過去の人となり、家族からも見捨てられ、金もなく、自堕落な生活を送って、もう自分の人生は終わりを迎えたと思い始めていました。
名コンビだったフォト・ジャーナリズム雑誌「ライフ」の編集長からも厄介者扱いされ、いよいfよ、もう終わりか、という時に、アイリーン・美緒子と運命的な出逢いを果たしました。
水俣病の取材をしてほしいと、アイリーンから懇願されるのですが、荒み切ったユージンは取り付く島もなく断ってしまいます。
しかし、アイリーンから渡された水俣病の現状の写真を見て驚愕し、衝撃を受け、アイリーンと共に水俣へ行くことを決意します。
まだ上映中なので、その後のストーリーは映画をご覧になってみてください。
この映画を観て、僕の心に残ったことをいくつかお話したいと思います。
①「写真を撮る時は、感情に左右されてはいけない。命を取られることがある。自分が何を撮りたいのか、何を伝えたいのかだけを考えなくてはならない。」
ユージンとアイリーンが、水俣病患者が入院する病院に忍び込み、苦しむ患者の姿を次々と写真に収めていきます。あまりの無残さにアイリーンは悲しみで取り乱してしまいそうになりますが、その時にユージンがアイリーンに語った言葉です。
さすが、残酷な第二次世界大戦の戦場にも赴いたユージンの言葉です。
そして、この言葉は写真家だけに当てはまるわけではなく、何かを人に伝える職業の人にはみんな当てはまるのではないでしょうか。
ジャーナリストはもちろん、こうやってブログを書いているブロガーやユーチューバーにも当てはまる言葉だと思います。
言葉というのは、感情に左右されればされるほど、人には伝わらないものではないかと思っています。
まず一呼吸置き、一度自分の意識を引いて、客観視し、「何を伝えたいのか」をきちんと考えて、伝えた方がうまく伝わることが多いのではないかと思います。
②「写真は、撮る方も魂を奪われる。だから心して覚悟して撮らなければならない。」
これも、ユージンがアイリーンに写真の撮り方を教えている時の言葉です。
よく「写真を撮られると魂を奪われる」という迷信が昔ありましたが、ユージンは撮る方が逆に魂を奪われる、と言っています。
確かに「写真を撮る」という行為は、写真家にとっては作品を作ることでありますが、写真家でなくても、写真を撮る時には自ずとそこに大きく意識が向きます。
先ほどの①と同様、「写真を撮る」=「何かを伝えたい」と考えるのならば、いい加減な気持ちで写真を撮るものではないことを、プロの写真家であるユージンは伝えたかったのでしょうか。
③実際のユージンとアイリーンの素顔
堅苦しい話ばかりになってしまいましたが、購入したパンフレットに載っていた、「ふたりが語る、水俣の出来事とユージンの素顔」のページが印象に残りました。
映画では、堂々とした大人の女性として描かれているアイリーンですが、実際のアイリーンは、もっとキャピキャピした典型的な21歳の女の子だったらしいです。
ユージンもお茶目な人だったらしく、いつも二人でダジャレばかり言って、ふざけあっていたらしいです。
当時、二人は原宿のセントラルアパートに住んでいたらしいですが、水俣へ行くための荷物を送るための住所を日本語で書いたり、実務的な手伝いをしていたのは、映画でもちょこっと出ていたカメラマンの石川武志だったそうです。
たまたま原宿のアパート前で知り合った石川氏は、水俣への出発直前の駅構内で、ユージンから「一緒に行かないか?」と誘われ、まるで猫を拾うみたいに着のみ着のまま連れていかれたエピソードはなかなか面白かったです。
ただ、ジョニー・デップ扮するユージンは、その顔立ちや体型・仕草まで、かなり似ていたようで、現在のアイリーンも実際のユージンと間違えて、声をかけそうになったほど似ていたそうです。
映画の本筋とは関係ない話ばかりで恐縮ですが、映画は本当に素晴らしい内容なので、ぜひ死ぬまでには観た方が良い映画です。
このような産業公害の問題は、この日本の水俣だけではなく、世界の至る所で、同じような状況で発生しています。
最後のエンドロールで、世界の公害の紹介とともに、それぞれの苦しむ人々の姿が映し出されていたのが、印象的でした。
また、キャストも素晴らしく、アイリーン役は国内外の映画で活躍している美波、患者側の抗議団体の代表に真田広之、チッソ株式会社の社長に國村隼、他にも浅野忠信・加瀬亮・岩瀬晶子が熱演しています。
ライフ誌の編集長役は、「パイレーツ・オブ・カリビアン」で敵対する役として、ジョニー・デップと共演していたビル・ナイです。
音楽は、あの坂本龍一が全曲携わっています。
コロナ禍で長らく鬱屈した日々を送ってきて、このような社会の苦悩を映し出す映画は、あまり気が進まないと思いますが、コロナ禍に苦しまされた今だからこそ、観るべき映画だと思っています。
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