「ああ、悪夢だ・・・」
2回も採血に失敗し、しかもこれから何度も針を刺されるかもしれないと思うと、恐怖の何物でもありませんでした。
前回の続きです。
しばらくして、先ほどのO先生と看護師のAさんが、若い先生2人を伴ってやってきました。
一人は先ほど手術内容の説明をして、書類のやり取りをした、高中正義似のM先生と、初めて会った、なんとなくTOKIOの城島茂に似たT先生でした。
O先生が言いました。
「患者さんの血管がかなり細くて深いところにあるようで、なかなか見つからないんですよ。」
M先生とT先生は左右に分かれて、それぞれの腕をさすったりして確かめていました。
「・・・確かに・・・これはなかなかわかりづらいね・・・」
「・・・これはなかなか厳しい・・・」
「本当は手首から関節の間の内側がいいんだけど、左右両方とも失敗したんだよね?」
しばらく二人とも執拗にさすった後、T先生が
「とりあえず右側の関節の上の部分で、血管が触れるところがあるよ。さっき刺した場所と少し離れているから、ここをチャレンジしてみようか。」
そう言って、アルコール消毒をしました。
「今度こそ、3度目の正直だ。研修医ではない正規の先生だし、なんとか成功してくれよ・・・」
僕は強く願い、そのうちに「プスっと」針が刺されました。
T先生は無言でそのまま深く刺しているようでした。
この時間がいちばん僕にとっては恐怖であり、苦痛の極みです。
血管にうまく入ったかどうかは、先生の反応と空気感でわかります。
うまく入った場合、先生の安堵感が微妙に伝わり、その後「大丈夫ですよ」と声がかかるのですが、うまく入らなかった場合、無言の状態がしばらく続き、そのうち針をぐりぐり動かして方向を変えるようになり、激痛が走って、針を抜くことになります。
残念ながら、後者の方でした。
「ああ・・・ダメだ・・・すみません、いったん針を抜きますね」
「ああ・・・ダメか・・・」
僕は脂汗にまみれ、再びグッタリしてしまいました。
再び2人の先生は左右に分かれて、執拗に腕をさすって血管を探すのでした。
なかなか見つからず、先生方も殺気立っているのがわかります。
T先生が、
「手首の部分がいちばん血管が浮き出てきやすいから、このあたりで探してみましょうか。」
と言いました。
「手首かよ・・やめてくれよ・・」
僕は内心ヒヤッとしました。
僕は以前手首に刺されたことがあり、非常に痛いことを知っています。
手首のあたりは神経が集まっていて、とても繊細な部分です。
「手首だけはやめてくれ・・・」
内心そう叫ぶと、T先生は、
「手首の横の部分がいいと思います。ここから腕の関節の方向に刺してみましょう。」
その部分であれば、それほど痛くなく、以前入院した時もそこを刺された記憶があります。
「そういえば、前回入院した時も、手首の横の部分だった記憶があります。」
そう訴え、アルコール消毒をして、再びプスっと針が刺されました。
この部分はそれほど痛くなく、これで入ればいいな、と思いました。
しかし、T先生は再び無言となってしまい、結局
「ダメだなあ・・・すみません、いったん針を抜きますね」
と言って、針を抜いてしまいました。
その後、左側にいたM先生の方が、左側手首の横に針をプスっと刺しました。
「こっちは入ってくれよ・・・」
しかし、願いはむなしく、結局入らず、針は抜かれました。
皆が狼狽している中、外来でお世話になっているセンター長のS先生がやってきました。
「あ!S先生!S先生だったらできるかも!」
と思い、S先生がやってくれることを期待しましたが、
「なんだか、大変そうですね・・・また来ますね」
と言って、去ってしまいました。
「なんだ・・・マジかよ・・・」
落胆している中、左側のM先生がいきなり手首のど真ん中を、何の前触れもなく、プスっと刺しました。
僕はいきなりのことにビックリしました。
そして、すぐに痛みが走り、そのうちに激痛に変わりました。
「痛い!痛いです!」
僕は叫び、針は抜かれました。
こうなったら、「まな板の鯉」状態です。
ことごとく失敗し、「これからどうなるんだろう・・・」と狼狽している中、看護師のAさんがおもむろに右側の上腕部をさすり、言いました。
「先生、この上腕部でしたら、血管触れてますし、行けそうですよ。」
「でも、上腕部だと、点滴針入れたら、腕を曲げることが出来なくなるし、針がすぐ抜けてしまう恐れがあるよ。」
しかし、他に刺せる場所もなく、「やってみましょう」とAさんが言い、針が刺されました。
しばらく無言でしたが、無事針が入ったようで、
「なんとか針が入りました。」
とAさんが言いました。
僕は「ハアーーーーーーーーーー」と心の底から安堵し、全身の力が抜けました。
「ここで採血もしちゃいましょう。」
とAさんが言いましたが、注射管6本くらいの大量の血液を採る必要があり、かなり難航しました。
圧を入れるなど工夫して、何とか採れましたが、今後ここで採血をするのは難しいだろうと言われました。
ただ、とりあえず点滴針が入ったので、安心しました。
そのうちに、主治医のF先生(なんとなく江口洋介に似ている)がやってきました。
「なんか、大変だったんだってね。」
そう言って、僕の点滴針の入った右腕を取って、観察し、
「でも、この上腕部だと、腕動かせなくて、患者さん可哀想じゃないか。」
と言いました。
そして、右の手首から関節の間の横の部分をさすって、言いました。
「ココとココ、2箇所が血管がちゃんと触れてるよ。」
「体毛に隠れていて、わかりづらかったかもしれないけど、こういうところもきちんと確認した方がいいよ。」
僕は思いました。
「なんだよ、もう少し早く来てくれれば・・・」
しかし、また刺されるのは心身ともに負担になるということで、とりあえず現状維持で、点滴針が外れたら、これらの場所に入れることとして、この大変な「格闘」は終了することになりました。
時間にして、約1時間半が経っていました。
僕はグッタリしながら、その後の夕食を食べ、
程なくして、S先生がやってきて、明日の手術の内容の説明をされました。
前回6年前と同じように、右側の足の付け根からカテーテルを挿入し、左心房内のおそらく前回と同じ疾患場所を焼き切る手術となるとのことでした。
もし、その場所を焼き切っても、不整脈が収まらない場合は、別の場所も検討する必要があるとのことでした。
前回の手術もS先生が責任者でしたので、僕はあまり心配していませんでした。
点滴針が入って、身体を動かすのが不自由でしたが、お風呂に入り、午後10時で消灯となりました。
こうして、非常に大変な思いをして僕の入院第一日目はやっと終わりを告げました。
(次回に続く)
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