山本譲二氏の「刑務所しか居場所がない人たち」を読みました。
前回からの続きです。
4⃣ 障害のある人に、どう接するか?
僕自身、知的障がい者の方に対しては、長年偏見を持っていました。
突然奇声を発したり、わけのわからないことを言ったり、走りだしたり、周りを顧みず行う行為に対して、心も身体もこわばってしまい、いったいどうやって接したらよいのか困ってしまうのでした。
出来れば関わらない方がいいし、そういう人が近くにいたら、なるべくその場を去ってしまおうと思っていました。
でも、歳を重ねるにつれ、山本譲二氏も言っていましたが、それらは障がい者の方たちなりの意思表示なのだと理解するようになりました。
障がい者の方たちは、自分の気持ちを伝えようとしても、障害があるが故、簡単にそれが出来ない、それ故、パニックを起こして、奇声を発するなど極端な行動に出ざるを得ないわけです。
山本譲二氏が言うように、障害がある人を理解するっていうのは、腫物のように扱うことでも、むやみに親切にすることでもないのだと思います。
普通の人とのコミュニケーションでもよく言われている、「自分と同じ目線で接し、彼らの立場になって考えてみること」これに尽きるのではないでしょうか。
5⃣ 有能な働きぶりを見せる軽度知的障がい者
実は僕の甥っ子は、もう30歳になろうとしていますが、子どもの頃からの知的障がい者です。
幼少の頃から、自分の考えを言うことがあまりなく、とても寡黙で、自分の世界に深く入り込む傾向がありました。
それ故、他人の感情に無関心と見られる傾向があり、また常に受け身で、自分から他人に対して働きかけて行動を起こすということがほとんどない傾向がありました。
そんな甥でしたが、良い特質も持っていました。
それは、決められたことはきちんと守り、やらなくてはならないことはきちんとやり遂げることでした。
ルーティンを続けることが得意であり、決まった時間に決まった作業を行い、毎日同じ時間の決まったルートの交通機関を使って、会社や学校に行き、ほとんど遅刻することはありませんでした。
そんな甥が大企業に就職することになり、有能な働きぶりを見せることになるのでした。
彼の仕事は、その大手企業の本社内での郵便物の振り分けです。
ものすごく大きな会社なので、毎日何千何万通もの郵便物が届きます。
そうした郵便物を部署ごと、担当者ごとに分類して、発送の準備をするのです。
とても面倒で、根気のいる仕事ですが、彼の仕事はとても早くて正確と評判で、障害の特性なのか、記憶力が抜群で、支店名や担当者の名前まで完璧に覚えていて、感心するほどテキパキと仕事をこなしています。
社内の評価も高く、そこでもう10数年働いています。
何度も再犯を犯し、何度も刑務所に戻ってきてしまう、障害受刑者の方たちも、きっと本当はこのような素晴らしい特質を持っているはずだと思います。
ただ、家庭環境が悪く、周囲の理解を得られず、支援も受けられなかったために、そういった良い特質の芽が出なかっただけなのかもしれません。

6⃣ 人間は役割を与えられると変わる
障がい者に限ったことではありませんが、人間は誰かに必要とされるから生きようと思えるし、自分が果たすべき役割があるから、がんばっていけるのだと思います。
先の甥っ子も、郵便物の振り分けという役割を与えたからこそ、生きる張り合いが出て、一所懸命やるようになり、もう何年も前からリーダーとなって、同じ知的障がい者の社員の方たちを指導したり、新しく入ってきた新人を教育したりして、意気揚々と過ごしています。
【まとめ】
著書の最後で、山本譲二氏はこのようなことを言っています。
「だれもが安心して暮らせる社会って、どんな社会だろうか」
キーワードは「ソーシャルインクルージョン(社会的包摂)」だと言っています。
社会から排除されているすべての人を、ふたたび社会に受け入れ、彼らが人間らしい暮らしができるようにしようという考え方です。
犯罪を犯した障がい者は、前科というものを背負ってしまったがために、「前科者」「障がい者」と二重の差別を受けて、いちばん排除されやすい存在となっています。
でも、いちばん排除されやすい人たちを排除せず包み込めば、誰も排除されない社会になるのだそうです。
日本という国は、歴史的にも「異質なもの」をとことん排除してきた社会なのではないかと思います。
しかし、この人口がどんどん減っている時代、異質なものをどんどん排除するだけでは、先行きは暗く、先細りになるだけでしょう。
政府は外国人の受け入ればかり進めようとしていますが、こうした国内の排除されやすい人たちを社会に受け入れることこそが、この国の本当の成長戦略になるのではないか、僕はそう考えます。