僕は会社の人たちがデスクで仕事をしている中を何も言わず早歩きで通り過ぎ、産業医が待つ会議室のドアをノックして、すぐさま中に入るのでした。
前回からの続きです。
だだっ広い部屋に大きな長机があり、上座側の席に、メガネをかけた60代くらいと思われる産業医が座っていました。
「リラポンさんとは、昨年末に一度お会いしてお話していましたよね?」
おもむろにそう言いました。
この産業医は歴代の中では至極まともな人で、気さくなほうであり、話しやすいタイプでした。
この先生の強い勧めで、今回休職することになったのでした。
僕は、休職開始した1月中旬頃から現在までの休職期間の状況、日常生活、主治医の見解、薬のことについてなど、かいつまんで詳細に話しました。
産業医は僕の話したことをすべて聞いた後、こう質問してきました。
「ご自身の心のエネルギーを、スマホの充電状況に例えると、数値にしてどんな感じでしょうか?」
これは前回も質問されました。
「そうですね・・・調子が良い時で70%から80%、調子が悪くなると30%程度でしょうか?」
すると、産業医はこう答えました。
「先ほどのリラポンさんのお話やリラポンさんの様子を観察させていただきました」
「先ほどのお話ですと、ほぼ毎日読書の習慣があり、それはほぼきちんとできているようですね」
「そして、自己洞察のためにほぼ毎日日記を書いているそうですが、これもほぼきちんとできているとのことですね?」
「はい、そうです」
「ほぼ毎日読書が出来ており、日記として文章もほぼ毎日書けている・・・」
「うつ病患者というのは、パソコンで言う『CPU』が壊れているので、そういうことができないのですよ」
「よって、リラポンさんを観察した結果、典型的なうつ病ではないのではないかと感じているのです」
産業医からそのように言われ、僕は納得しました。
主治医のK先生からも「典型的なうつ病ではない可能性がある」と言われていたので、特に驚きはしなかったのですが、次の言葉が僕に衝撃を与えました。
「リラポンさん、これはあくまでも私の見立てなのですが、典型的なうつ病ではなく、躁うつ病の一種である「双極性障害Ⅱ型」の疑いがあると見ているのですよ」
(「双極性障害Ⅱ型」? なんじゃそれは?)
僕は突然の産業医の診断に、言葉を失うのでした。
(次回に続く)