坂本龍一氏の死後、昨年6月に出版された「ぼくはあと何回、満月を見るだろう」を読破したので、僕なりに感銘を受けた箇所を少しずつご紹介していきます。
今回は第1章「ガンと生きる」の中からの3回目となります。
6⃣ 「戦メリ」に対する想い
坂本龍一氏の代表曲と言えば、「戦場のメリークリスマス」を思い出す人が多いと思いますが、坂本龍一氏は、「坂本龍一=戦メリ」と思われることがイヤでイヤでたまらなかったそうです。
世界中どこへ行っても、「戦メリ」を弾いてくれないかと言われることにいい加減うんざりしてしまって、10年位封印してコンサートで演奏しなかったとのことです。
そして、「戦メリ」を超える名曲を!という思いをずっと持ち続けて、曲作りを続けてきたそうです。
にもかかわらず、晩年になって再び弾き始めたきっかけとなったのは、2010年のキャロル・キングとジェイムス・テイラーによる武道館コンサートを観に行ったことだったそうです。
キャロル・キングの代表曲と言えば、「You've Got a Friend」ですが、なかなか演奏してくれず、焦らすだけ焦らされて、坂本龍一氏はイライラしてしまったそうです。
やっとラストに弾いてくれて、生で聴けた喜びに安堵し、そこで、はた!と気づいたそうです。
ミュージシャンである自分ですら、他のアーティストのコンサートとなると、なかなか代表曲をやらないことにイライラしてしまうのだから、自分のコンサートでも「戦メリ」を弾いてくれることを切望している人の存在を決して無視できない、と納得したのだそうです。
この本のインタビュー当時の2021年頃でも、「坂本龍一=戦メリ」というパブリック・イメージには抵抗はあったそうですが、淡々と自分の作りたい音楽を作り続ければそれで十分であり、イメージを打ち破ることを終生の目標にして、残された時間とエネルギーを使うのはつまらないことだと、認識を改めたのだそうです。
7⃣ 死後の世界
「死後の世界」というと、なにかとても非科学的で、スピリチュアルな世界というイメージがあります。
僕自身は、このようなスピリチュアルな「死後の世界」というものにはとても興味があり、末期ガンで死を身近に感じたこともあって、「死後の世界」や「転生」というものはあるのではないかと秘かに思っています。
坂本龍一氏は芸術家ではありますが、とても知的な人物であり、現実的な考え方も持ち合わせている人です。
しかし、この章の部分で、坂本龍一氏は2つのことを例に挙げています。
ひとつは、「コンタクト」という映画で、ジョディ・フォスター主演・ロバート・ゼメキス監督で、NASAで惑星探査のリーダーも務めたカール・セーガンの小説を原作にしたSF大作です。
もうひとつは、敬愛する「ボサノヴァの父」と言われるアントニオ・カルロス・ジョビンのエピソードです。
そんなジョビンが生前アマゾンの森林破壊を大いに悲しみ、こう言ったそうです。
「神が、こうもあっけなくアマゾンで300万の樹木を打倒させているのは、きっとどこか別の場所で、それらの樹木を再生させているからだろう。そこにはきっと、猿もいれば花もあり、きれいな水が流れているに違いない。ぼくはね、死んだら、そこへ行くんだ」
詳しくは、本書をお読みいただければと思いますが、この章の最後をこう締めくくっています。
「セーガンやジョビンの想像力、そして死んだらお星様になるという素朴なファンタジーを、今の僕は決して否定したくありません」
「果たして死後の世界があるかどうかは分からないけれど、ぼんやりとそんなことを考えています」
亡くなってしまった現在、坂本龍一氏は「死後の世界」を見ることが出来たのか、もしくはその場所にいるのか、知る由もありませんが、ぜひとも「死後の世界」でも生前と変わらず、バイタリティ溢れる活動を続け、まだ現世界にいる僕たちに時々警告を発して、導いていただきたいと切に願います。