前回は、左眼の中に新たに出現した浮遊物「フライ」のお話をしました。
中原先生に再度左眼の手術をお願いしよう、と決意して、7月31日の朝一番で、深作眼科の建物の前で、バスから降り立ちました。
7月10日の手術以来、左眼の中に新たに出現した浮遊物「フライ」のため、3回も深作眼科に来ていました。
今回は最後の解決策として、手術をお願いするということで、とても大事な局面でした。
僕と妻は、黙って決意を新たにし、建物の中に入っていき、受付に向かいました。
今回は中原先生ということで、中原先生の診察室の前で待ち、名前を呼ばれ、妻と一緒に中に入っていきました。
先生は、浮かない顔をしていて、じっとモニターの中の僕の眼と思われる画面を覗き込んでいました。
そして、こちらを向くと、顕微鏡の前に僕を促し、かなり細かく僕の左眼の中を覗き込み、こう言いました。
「キレイにやったはずなのに、なんでまだそんなに患者さんを悩ませるような浮遊物が存在するのだろう・・・」
先生としても、腑に落ちないようで、何度も何度も執拗に、あの「フライ」を探し続けていました。
そして、数分間でしょうか。かなりの時間が経ったと思われますが、ずっと探し続け、突然「これか!」と先生が叫びました。
「ああ!これなんだ・・・」
「ちょっと大変だけど、写真を撮ってみますよ」
そして、医療用の精密な撮影機械とモニターを用意し、さっそく取り掛かりました。
眼には大きく映りますが、実際は微細な浮遊物で、あちこちと飛び回っているので、それを写真に撮るのは容易ではなく、結構な時間がかかりました。
でも、なんとかもう一度苦心しながら探し出し、ボタンが押され、カシャッと音がしました。
「○○さん!撮れましたよ!これです!」
と先生が興奮して、叫びだし、「フライ」はモニターに映し出されました。
モニターに映し出された「フライ」は、ひし形の形をしていて、尾ひれが付いていて、まさに「エイ」がひらひらと浮遊して泳いでいる姿そっくりでした。
「コイツだったのか・・・」
先生と妻と僕は、その「フライ」の姿をまじまじと見つめていました。
そして、先生はモニターの「フライ」を見ながら、こう言いました。
「この浮遊物は、眼には大きく映るかもしれませんが、実際はかなり微小な本当に小さい虫のようなものなんです。」
「しかも、あちこちに飛び回るので、手術するときにしっかりとどこにいるのかを確認して、取り除く作業を行わなくてはならない。」
「でも、これが非常に難しいんです。硝子体の中の濁りを取り除く方法というのは、『ギロチン方式』と言って、カットしては水で流すという方法を繰り返すのです。」
「せっかく見つけても、水で流す作業の時に、どこか飛ばされて行ってわからなくなる可能性があります。水で流す部分に入ったと思われても、それは手探りでやっているようなものです。実際、非常に難しく、かなり運に左右されると言わざるを得ません。」
そして、先生は一瞬考えて、こう続けました。
「この浮遊物は明らかに硝子体繊維のカスであり、これは必ず小さくなっていきます。そして、いずれ消えて無くなるので、それまで待つという選択肢もあります。まあ、期間として、約3週間くらい、長く考えて2~3ヶ月くらいですが、それが最良の選択肢だと思いますよ。」
先生にこう言われ、僕は迷ってしまいました。
確かに待てば消えて無くなっていくのかもしれませんが、また3週間から最長3ヶ月もこの状態で待つというのは、結構しんどい。
それに、先生には申し訳ないが、本当に自然に消えて無くなるという確証もない。
僕が考え込んでいると、先生はそれを察したのか、こう言いました。
「今使っている機器ではなくて、今は出回っていない方の機器であれば、口径が細いので、眼に与える傷を最小限にすることが出来ると思います。ちょっと業者に確認してみましょう。」
先生はすぐに携帯電話を取り出し、目の前で業者に電話をかけました。
そして、事情を話し、目の前に患者がいて、どうしても早く手術をしてほしいというので、至急その機器の確認を頼む、とお願いしてくれました。
そして、しばらくすると、業者から先生の電話に返信がありました。
それを受けて、先生は僕にこう言いました。
「業者に今手配すると、約3週間かかるそうです。でも、それまで待って、手術日を判断するという方法がありますが、どうですか?いずれ手術が出来るという希望を持って、当面は我慢してみるということになりますが、いかがですか?」
僕はまた考え込みました。
でも、次の瞬間、何かが僕の心に降りてきたようでした。
「ずるずると時を引き延ばすのではなく、今すぐにやった方がいい。」
次の瞬間、僕はこう答えていました。
「先生、僕のために手配していただき、ご提案していただいて、本当にありがとうございます。」
「でも、僕は今日でもいいから早くやっていただきたいのです。なぜなら、僕は目の病気のために、仕事を辞めてしまって、早く生活のためにも仕事を探さなくてはならないのです。家族も養わなければなりません。」
続けて、妻もこう言ってくれました。
「夫は本当に苦しんでいるようで、なるべく『フライ』が見えないように、家の中を真っ暗にして過ごしているんです。家の中も、気持ちも真っ暗で、本当にツラくて苦しんでいます。」
目をつぶりながら、先生は僕たちの言葉を聞いていました。
そして、僕の目を見つめ、真剣な顔つきになりました。
先生は肚を決めたようで、ひとこと、こう言いました。
「わかりました」
さっそく看護師にその日の手術のスケジュールを確認してくれました。
そして、こう言ってくれました。
「ちょうど、運良くキャンセルが出たようです。今日やっちゃいましょう!」
「ライトを入れれば、何とかなるだろうし、その方が解像度が高くなるので、大丈夫でしょう。」
こうして、僕は晴れて、3度目の手術をすることになりました。
(次回に続く)
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