2020年は、コロナ禍にもかかわらず、村上春樹氏は結構活躍していました。
久しぶりの短編小説「猫を棄てる」、短編集の「一人称単数」、そして今回ご紹介する「村上T 僕の愛したTシャツたち」、翻訳小説も多数出版していました。
村上春樹氏は、2018年からFM東京でラジオを不定期に放送しているようで、僕も2020年2月から聴き始めていますが、村上春樹氏の好きなジャズやボサノヴァなどのレコードがかかったり、それらに関しての興味深いエピソード、氏特有のゆるーい感じのトークがなんともいえず、毎回聴き逃さないよう、録音して聴いています。
そんな村上春樹氏が、コロナ禍真っ最中で不安に満ち溢れていた2020年5月に出版した「村上T 僕の愛したTシャツたち」
コロナなどまるでお構いなしに、自身が思わずコレクトしてしまった108枚のTシャツをめぐるエピソードを独特の文調で展開しています。
男性ファッション誌の「ポパイ」に連載されていた人気エッセイだったそうですが、とても気軽に、楽しく読めるので、この不安なコロナ時代にはピッタリな1冊だと思います。
私なりに、読んだ感想をピンポイントでお伝えしたいと思います。
①「気を落ち着けて、ムラカミを読もう」
村上春樹氏が書いていましたが、海外では何か本を出版するたびに、Tシャツやトートバッグや帽子などの販促物が作られるようで、海外で出版すると、すぐに村上春樹氏に「こんなものを作りましたよ!」とドッサリ送られるようです。
写真のTシャツもその一つだそうですが、なかなかフレースが変わっていて、面白いです。
元々は「平静を保ち、普段の生活を続けよう」という意味合いで、第二次世界大戦中に、イギリスの情報省が、国民の心を落ち着かせ、パニックを防ぐ目的で作られたポスターの言葉だったそうです。
リーマン・ショックの時も、金融機関が大量にこのポスターを作ったそうですが、この現在のコロナ禍にもピッタリのフレースですね。
②「レコード屋は楽しい」
村上春樹氏は、言わずとしれた「中古レコード・マニア」で、世界中の場所に行っていたそうですが、必ず旅行をした場所の中古レコード店を探して、覗くのが好きなのだそうです。
主にジャズのレコードをコレクションしているそうですが、めぼしいものがなければ、クラシックやロックのレコードも探すので、際限なくレコードが増えていくのが悩みとか・・・(笑)
世界中をあちこち行って、中古レコード屋的に見れば、どの都市がいちばん魅力的か、などというランキングや、その時のエピソードなども書いてあって、レコード・マニアの方にとっては、とても興味深く、ハマる内容だと思います。
僕も音楽が好きで、10代の頃から、よくレコード屋に行っては、少ない小遣いでレコードを買っていました。20代以降は主にロック・ジャズ・クラシックのCDを買い集め、専用の部屋を作るまでに至りました。
「中古レコード屋で、ぱたぱたとレコードを探して1時間くらい暇を潰しているのが無上の喜びだ」と語っていましたが、ものスゴく、よくわかります。
③Tシャツを選ぶ基準
村上春樹氏は、きちんとしたおしゃれなTシャツをお店に行って買うことがあまり好きではないそうです。
ノヴェルティーで出版社からもらった特別なものとか、中古屋で買うほうが好きなのだそうです。
安い中古屋で、いろいろなものを見て、半日時間を潰すのが楽しいとか。
僕などはどうしても他人が着ていたようなものとかの中古物はあまり好きではないのですが、70代前半の村上春樹氏の年代では、このような傾向があるようですね。
そういえば、ローリングストーンズのミック・ジャガーやキース・リチャーズも、来日して楽しく買い物する場所は、原宿あたりの古着屋だと言っていました。
④村上春樹氏の普段のファッション
村上春樹氏の普段のファッションは、夏はTシャツ+ショートパンツのみで、きちんと襟のついたシャツはほとんど着ないそうです。
かなりの数のTシャツと、ショートパンツもいろいろな種類のものを集めているようで、Tシャツに靴下なしのスニーカーが定番なのだそうです。
ベストセラー作家で、かなりの収入を得ているからと言って、いつも高価なものを身に着けたり、買ったりしているわけではなく、人それぞれの考え方やライフスタイルがあるのだなあと、興味深く感じました。
ただ、公の場に行く時は、必ずバッグの中に、上からはける長いズボンと上に羽織ることが出来るシャツを入れて持参するそうです。出版社の方に銀座の吉兆に招待されて、店の入口で着替えたというエピソードには、けっこう笑わせられました。
⑤着れるTシャツ、着れないTシャツ
たくさんのTシャツを所有している村上春樹氏ですが、やはり着れないTシャツというものはあるそうです。
村上春樹氏は、以前も言っていましたが、あまり人目を引くことがイヤなのだそうです。なるべくこそっと隠れて生きていたいと。
氏も、地下鉄やバスに乗ったり、街を歩いたり、書店やディスクユニオン?に行ったりするそうなので、人目を引くと困るのだそうです。
基準としては、「メッセージTシャツ」
メッセージが書いてあると、人は読むものだと言っていましたが、たしかに無意識に読んでしまいますね。
まあ、カッコいい言葉や含蓄のある言葉だったら、構わないような気もしますが。
あと、ロックコンサートで販売されているようなTシャツだそうですが、たしかに、いかにも「このアーティストが好きだ!」とアピールしているようで、まあ気恥ずかしくなる気持ちは僕もあります。
まとめ
ご紹介してまいりましたが、この本は本当に気軽に読めるので、お仕事の合間や通勤などの途中など、スキマ時間を利用して読むと、心が和むと思います。
村上春樹氏がコレクションした、さまざまな面白い変わったTシャツの写真がところどころに散りばめられていて、氏のゆるーい文体も心地良いです。
また、この本を読んで、改めて実感したことは、村上春樹氏も基本的には僕たちと変わらない普通の方で、普通の日常を過ごしているのだなあと思いました。
中古レコード屋のディスクユニオンにも行っているとのことですが、ウィスキーの話になって、今日はくたびれたなというときには、プロントに入って、ジム・ビームのハイボールをジョッキで飲むのだそうです。村上春樹氏がプロントにいるなんて、誰も想像しないと思いますが・・・
あと、金銭感覚も意外と庶民的で、ハワイで古着のTシャツを探して買う時も、1ドルか1ドル99セントだと大抵のものは買うそうですが、最近は3ドル99セントくらいに相場が上がってしまったそうで、ものによってはオーバープライスだと感じると買わないそうです。3ドル99セントでも日本円にすると約414円ですから(2021年1月24日現在)、充分安いと思うのですが・・・(しかも村上春樹氏のようなベストセラー作家ならね・・)
最後に、村上春樹氏のいちばんお気に入りというか、思い入れがあるTシャツは、あの映画化された「TONY TAKITANI(トニー滝谷)」と書かれたTシャツだそうです。
これに関する興味深いエピソードが書かれていますが、それは本を購入して読んでのお楽しみとしておきます。
ぜひ、「ムラカミTシャツワールド」をお楽しみください。