もう上映はとっくに終わってしまったのですが、8月下旬に映画「ドライブ・マイ・カー」を観ました。
言わずと知れた、村上春樹の原作の短編小説「ドライブ・マイ・カー」を映画化したもので、第74回カンヌ国際映画祭の4冠を受賞した話題作です。
この映画を観て、僕なりの感想をお伝えしたいと思います。
①月並みな感想ですが、とにかく脚本が素晴らしかったと思います。
原作にはないシーンや会話がほとんどでしたが、いかにも村上春樹作品に出てきそうなシーンや登場人物の言葉が出てきて、そのどれもがしっくりはまっていました。
あの小品のような短編をどうやって約3時間もの長編映画に仕立て上げたのか、観る前は甚だ疑問でしたが、観ているうちに作品にどんどんと惹き込まれ、気が付くと、3時間があっという間に過ぎていました。
②これも月並みな感想ですが、俳優陣の演技力がとても素晴らしかったと思います。
主役の西島秀俊・三浦透子をはじめ、俳優陣は皆素晴らしい演技で、それがとても自然でした。
特に、女性ドライバーのみさき役を三浦透子が演じていましたが、全く原作通りのイメージで、無愛想でクールで、余計なことを一切言わないが、洞察力に優れていて、相手の言うことの本質を見抜くという性格を、見事に的確に演じていました。
③この映画の原作はあくまでも村上春樹の短編集「女のいない男たち」に収録されている「ドライブ・マイ・カー」ですが、脚本家である妻の「音」が作り上げる物語の中に、同じ「女のいない男たち」に収録されている「シェエラザード」の「ある女子高生が好きな男の子の家に空き巣に入って、自分の「印」を残していく」という話があります。
実はこの話が、この映画全体のキーにもなっているという構成が素晴らしかったです。
④妻の「音」は、夫の「家福」を愛していながらも、いろいろな複数の他の男と秘かに性的関係を持っていて、続けていました。
しかし、自分のやってきたことにだんだんと耐え切れなくなってきて、ある日ついに夫に告白しようと決意します。
それを先ほどの「シェエラザード」の女子高生の話とうまく絡めていました。
女子高生は度々好きな男の子の家に秘かに忍び込んで空き巣に入り、自分の「印」を残して、ずっとバレずに秘密にしてきました。
ところがある日、女子高生が好きな男の子の部屋にいる時に、本物の空き巣が入ってきて、強姦されそうになり、格闘して誤って殺してしまいます。
ところが、そのことは何も明るみに出ることもなく、日常は何ら変わることはありませんでした。
女子高生はそのことに耐え切れなくなり、自分のやってきたことの責任を取ろうと決意し、男の子の家の監視カメラに向かって、ついに告白します。
家福は、妻からその物語は聞いていましたが、本物の空き巣が出てきてからの話は聞いていませんでした。
ところが、浮気相手の高槻は全部聞いていて、それを車の中で、高槻の口から家福に話す脚本にしたのは、とても素晴らしかったと思いました。
⑤妻の「音」は、自分の口から、これまでの情事について夫に告白したかったですが、その直前に無念にもくも膜下出血で亡くなってしまいます。
ここからは僕の推測ですが、自分の口から告白できなかった妻の「音」は、浮気相手の高槻に託して、家福と高槻を引き合わせ、同乗した車の中で、音は高槻に乗り移って、高槻の口から告白したのではないか、と考えています。
人間は、自分のやってきた「後ろめたいこと」に関して、ずっと胸に秘めて、秘密にしておくことには耐えられないものなのだというメッセージを、この映画を観て感じました。
最後に、同じような過去と痛みを抱える家福とみさきが、広島から北海道のみさきの故郷の実家まで、家福の車をみさきが運転して、大旅行をする壮大なシーンがあります。
そして、徐々に二人の信頼関係が深まり、打ち解けていきました。
最後には、
みさきの廃墟となった実家の残骸の前で、二人が互いの心の奥深くの思いを告白し、抱き合う場面は圧巻でした。
もう上映は終わってしまいましたが、いずれDVDやBlu-rayが発売されると思いますので、ぜひご覧になることをオススメします。
最後には意外などんでん返しもあります。
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